デートDV防止のこれまでとこれから: デートDV防止全国ネットワーク設立!  山口のり子代表の挨拶

デートDV防止に関わる全国の人や団体をつなぐ「デートDV防止全国ネットワーク」が設立され、8月26日東京都で、それを記念するシンポジウムが開かれました。

アウェア代表で、「デートDV」という言葉を生み出した山口のり子が「デートDV防止全国ネットワーク」の代表理事となり、設立集会で次のように挨拶をしました。

「デートDV防止のこれまでとこれから」

デートDV防止全国ネットワーク代表理事に就任した山口のり子です。本日は猛暑のなか、ご参加いただき厚く御礼申し上げます。今日は各地で防止活動をする私たちが、力を合わせて全国的に発展させようと決意をして動き出した画期的な日です。そのような日に、デートDVを防止するための教育や活動にすでに関わっている方、これから関わりたいと思っている方、そして関心を寄せてくださる方々が、全国各地からこのように大勢集まってくださったことを大変心強く思います。

私からはデートDV防止教育や活動がどのように始まり、どうなっているのか、またこれからどうするのかをなどをお話しさせていただきます。

そのためにはアウェアの話を先にさせていただきます。私は2002年に「アウェア」を東京で設立し、DVのない社会を目指して活動し始めました。「アウェア」とは英語で「気づく」という意味です。DVのない社会を目指すには、この「気づき」がとても大切だと思ったので、そう名付けました。

まずDV加害者プログラムを始めました。対象は妻や恋人にDVをしてしまった男性たちで、プログラムは毎週2時間、52回以上参加してもらいます。なぜそんなに長いのかというと、私がアメリカのカリフォルニア州で、その法律や同業の先輩たちのやり方をお手本に学んできたからです。カリフォルニア州では加害者に52回の加害者プログラムへの参加命令が裁判官から出されます。

アウェアの活動は今年16年目で、約750人の加害者がアウェアに来ました。16年前、プログラムを始めてじきに気づいたことがあります。男性たちは30代、40代が多いのですが、彼らは若いころからDVをしているということです。例えば、ある人は、彼女に待たされたとき怒ってけってしまったと言い、ある人は、高校生のとき別れ話をしてきたガールフレンドのほおをひっぱたいたと言い、ある人は、結婚していないのだからあれこれ言わずに俺を優先しろよと考えていたと言い、で、結婚したら今度は、俺は一家の主なんだから優先しろになったと言いました。またある人は、妻がまちがっているんだからたたいて教えて何が悪いと、思っていたと言いました。

彼らの多くが若いころからDVにつながる考えをもち、それに基づいた態度・行動を親密な関係の相手にしていたことに、彼らも私も気づいたのです。気づいた男性たちは、もっと早く気づきたかった、今アウェアで学んでいることを高校生や大学生のころ学びたかった、と言うようになります。

そこで私は、DVのない社会をつくるには、若者向けの未然防止教育が必要であり重要だと考えるようになりました。アウェアを開設した翌年、2003年に、若者向けのDV防止プログラム作りにとりかかりました。若者たちにいったい何をどう伝えたら、彼らが加害者にも、被害者にもならないですむのか、それを男性たちの発言の中から見つけ出そうとしました。DVを起こす要因は加害者ひとりひとりいろいろもっていますが、彼らに共通したもの、彼らが例外なくもっているまちがった価値観があるはずだ、それは何なのか?それらを見つけ出して子どもたちにわかりやすく伝えられたら未然防止になるのではないかと思いました。そこで私は毎週DV加害者たちが言うことを注意深く聞きながらしばらくの間考えました。

そして3つ選びました。

  • 力と支配
  • 暴力容認
  • ジェンダー・バイアス

「シャンダー・バイアス」とは、他の言葉で言ったら「カノジョ・カレシの“らしさ”と役割(ジェンダーロール)の決めつけ」です。

このジェンダーについては大変印象深い若者が数名います。アウェアの加害者プログラムに参加したデートDVの加害者たちです。2人ご紹介します。

1人は23歳の大学生でした。複数の相手に暴力をふるい、最後には起訴されてアウェアにやって来ました。この若者の両親はジェンダー役割を絵に描いたような夫婦で、お父さんが常にお母さんを従わせ、お母さんは常にお父さんにかしずいていたそうです。加害者プログラムのグループに初めて参加した日、彼は自分のした暴力について話したあと、彼にとってはずっと年上に当たるグループの男性たちにこう言いました。「いったいどうやったら彼女を、僕の父が母を思い通りにしていたように、できるんですか?教えてください」。

もう1人は32歳の男性です。3人目の交際相手とは婚約までしていたのに、彼のデートDVが原因で婚約を破棄されたそうです。彼はそれがショックでアウェアまでたどり着きました。DVは「ジェンダー・ベース・バイオレンス」とも呼ばれます。「女の役割と男の役割」の思い込み・決めつけが基でおきる暴力という意味です。あるとき彼のグループで、ジェンダーが話題になったとき、彼は「自分は関係ない」と言い切りました。「僕の上司は女性ですが、僕は彼女を尊敬しているし、いい関係で仕事をしています。同僚にも女性が多いですが、僕は彼女たちを働く仲間として尊重しています。セクハラなんてしたこともありません」と言いました。でも彼は続けてこう言いました。「でも、僕は恋人にはパートナーとして2つのことを求めます。1つ、反論しないこと、1つ、服従すること」

のけぞったのは私だけはありません。グループの男性全員が仰天しました。自分のDVは自覚できなくても、仲間のDVやおかしな考えなどはよく分かるからです。でもその若者は、自分の抱える大きな矛盾にそのときはまったく気づけませんでした。彼の頭の中では辻褄が合っているからです。職場など社会的な場面での女性は対等・平等に扱うけれど、個人的で親密な関係の相手は別なんです。価値観のスイッチを彼はカチっと切り替えるのです。

話を戻しますが、これら3つ、「力と支配」「暴力容認」「ジェンダー・バイアス」をアウェアの防止プログラムでは、学び落とす(気づいてやめる)考え方、としました。これらは実は誰もが大なり小なりもっている価値観なのに、もっていることになかなか気づけません。でも気づかないと、紹介した若者のように加害者になってしまうかもしれません。あるいは被害者になってしまうかもしれません。

若者や子どもたちにこの3つを自分のこととして気づいてほしいと思います。

若い人にとっては「学び落とす」だけでは足りません。加害者・被害者にならないように学んでほしいことがあります。それらもアウェアのプログラムに盛り込みました。

学ぶこと

  • 相手を対等・平等な人として向き合う
  • 尊重する  自己決定権の尊重 (性的自己決定を含めて)
  • 自分らしさを大切に(性別による「らしさ」ではなく、相手のも大切に)
  • 共感      他

このような骨子のプログラムを本にして出版しました。本のタイトルに「デートDV」という言葉を使いましたが、実は出版物に「デートDV」という言葉が使われたのはこれがはじめてだったそうです。その後、「デートDV」という言葉は次第に普及し、社会的にだいぶ認知されてきました。それだけ実際に若者たちの身近にたくさん起きていることの表れです。様々な調査で、交際経験のある若者たちの3組に1組の割合でデートDVが起きていることも分かってきました。

アウェアが次に取り組んだのはデートDV防止プログラムの実施者の養成です。2006年より養成講座を開催し、これまでに北海道から沖縄まで、各地から500人以上の人たちが受講してくれました。年に1回開催する継続学習の場であるフォローアップ講座は、これまでに11回開催しました。

でも、デートDV防止に取り組んでいたのはアウェアとその関係者だけではありません。アウェアの情報から、あるいはほかの情報を基に独自のものを作ったり、それぞれの専門を生かしたりして、各地でさまざまな方々によるデートDV防止の取り組みが15年の間、地道に行われてきました。どの取り組みも子どもたちをDVの加害者にも被害者にもさせないという同じ想いからだと思います。

このように各地でさまざまな防止活動がそれぞれの努力で展開されてきましたが、防止プログラムが実施できたり、できなかったり、違いが生じています。防止活動に熱心な地方自自治体もあれば、そうでないところもあります。地域によって差が出ています。高校を卒業するまでに3回プログラムを受けたという子どもたちがいる一方で、まだ一度も受けたことがないという子どもたちもいます。

親密な関係になった人と対等で平等で、健康な関係をつくる力はまさに「生きる力」です。その力はデートDVとDVを世の中から減らしていくはずです。男性優位のいびつな社会の形を変えていく力にもなります。子どもたちが、民主的で開かれた社会を構成するいち市民となる力にもなることでしょう。子育て中の7割の親が子どもに体罰をしているという実態も変わるでしょう。児童虐待も減るでしょう。DVと根が同じであるセクハラも減らしていけるでしょう。性による差別によって生じている大きな格差も、次世代では縮められるかもしれません。デートDV防止教育は、社会を変える力を秘めた教育であると私は信じています。

このように、デートDV防止教育が大事な教育であればあるほど、どこにいても子どもたちが等しく受けられるようにする責任が私たち大人にはあります。そこで数年前からエンパワメントかながわの阿部さんが、デートDV防止に関わる人たちをひとつにまとめる動きを始めてくださいました。全国ネットワークの設立のここまでの道のりにはいろいろなご苦労があったことと思います。阿部さんのその決意と勇気とご尽力に感謝したいと思います。

本日午前中に、私たちは総会を開き、NPO法人として申請もし、全国組織として動き出しました。これからは、私たちの間で話し合いを重ねながら、国への働きかけや、例えば東京のようにまだ動き出していない腰の重い自治体への働きかけも行っていきたいと思います。1個人や1団体には力がなくても、全国組織で一丸になって動けば、大きな重い石も動くことでしょう。

でもまだ仲間が足りません。皆さん、ぜひ私たちの仲間に入ってください。歩き出したばかりの私たちに、皆さんからのご支援とご賛同をいただけますよう、またいっしょに活動する仲間になってくださいますよう心よりお願い申しあげます。

ありがとうございました。

 

当会の会員・賛助会員になってください。

詳細: http://notalone-ddv.org/info/451/

お申し込み:電話045-323-1818

Email:ddvbousinet@yahoo.co.jp

デートDV防止全国ネットワーク事務局:

  認定NPO法人エンパワメントかながわ事務局内

違いは間違い 自分と違う相手の意見を間違いと思ったことがそもそも間違い ある日の振り返り(8)

Fより:今年になって初参加の男性が年末年始のDVのふりかえりをしました。どうして僕たちはDVしてしまうのかを考えなければならないという議論になりました。その結果みんなで辿り着いた結論は「違いは間違い」。その意味は、自分と違う彼女の考え、意見、やり方などを”間違っている”と断定していた自分こそ”間違っている”ということです。

今週の名言”でした。

妻が自分のDVの復讐をしてくるのがつらい 振り返り(7)

振り返りをした男性:パートナーが自分のDVの復讐をしてくるので辛くなって別居しようと、勝手にアパートを契約しました。自分としては逃げたい気持と、今度彼女から何かされたらやり返してしまうかもしれないという気持ちと、子どもの前で争いたくないという気持ちが混じっています。

Fから:男性たちが一斉に彼の味方をしました。今度暴力をふるって逮捕されたら、自分の人生は台無しになる・・・という発想で、かばいあって泣く人も出ました。

そもそもどうしてそういう状況に置かれたのか、ということ
を彼らはすっかり忘れていたようです。

Fは、 自分のしたことを忘れがちな加害者たちに、常に「あなたはなぜここに来ているんですか?」と問いかける必要があります。

DVで子どもが発達障害になる ある日の振り返り(6)

DV加害者プログラム(グループで実施)では、毎週「振り返り」といって、一週間を振り返り、してしまったDV、おきたことや状況の変化、自分の気づきなどについて報告し合います。

ある日次のような報告がありました。

Aさんの振り返り:学校の勧めで子どもが発達障がいの検査を受けています。

F(ファシリテーター)からの簡単な報告:DVの影響が出ているのではないかという意見が多数出ました。実際、参加者の子どもにそれが見受けられることがよくあります。

 

Bさんの振り返り:お正月休みでパートナーと接する時間が増えたため、お互いにストレスがたまり、とうとう別居することになりました。

F:そんな大変な時に一致団結しないでストレスをためるなんてDVをし続けているということだ!という意見が出ました。

 

Cさんの振り返り:最近、以前の状態に逆戻りしてきたような気がします。パートナーに何か言われると言い返すようになってしまいました。

F:気が緩んでいる、という厳しい意見もありました。

 

ある日の教材 加害者である自分のことがわかる:サルカニ・バイオレンス

ファシリテーターより:

今日は、教材として「サルカニ・バイオレンス」という本を読みました。昔話「サルカニ合戦」をモチーフに、DVをわかりやすく語ったものです。サルが加害者で、カニが被害者です。

サルさんの気持ちについては、いろいろと意見が出ましたが、カニさんの気持ちについては、自分のパートナーと重なるという意見はあまりでなくなります。

でも、サルさんがこういう行動をすると、カニさんはこういう気持ちになるんだなという気づきの声は多く出ました。

カニさんがDV被害に遭っても、親や周囲に理解してもらえす、さらに傷つけられることを初めて知ったという声も多く出ました。パートナーがすぐに離婚や別居を考えられなかったのはこういう理由があったからかもしれないという意見もありました。

 

 

15年経ってやっと社会が追いついた!  東京地方裁判所で講演

アウェアDV加害者プログラムは始めてから16年目になります。
2018年7月、はじめて東京地方裁判所に呼ばれ、アウェア代表山口のり子がアウェアの加害者プログラムと加害者について講演しました。

対象は、裁判官、書記官、調査官など。
DVの研修はこれまでに何度かしたそうですが、被害者を通しての話だけだったとのこと。「加害者のことも知りたいという声が出てきたので、インターネットで探したところ、アウェアをやっと見つけました!」と言って研修担当者が講演
依頼にアウェアまで来てくれました。

講演が終わり質疑応答に入るとき、司会者が「では質問でも感想でも懺悔でも」と言って笑いを取りましたが、それだけ自分ごととして聞いてくれた証です。

裁判官が抱える悩みも聞いてきました。DV防止法には、暴力はからだへの暴力だけではないとしているのに、いざ保護命令となると発令の条件はからだへの暴力がおきていること。言葉によるものや、精神的暴力などは法律により認められない。

保護命令を出してあげたいケースでも、からだへの暴力がおきていないと却下しなければならず、心が痛むという声を聞きました。

保護命令の条件を変えるか、新たな立法が必要とのこと。
内閣府では、セクハラ罪を作る動きがあるようですが、DV罪も必要です。

1日も早く、被害者に寄り添った判決を裁判官が出せるようになることを期待しています。

おまじないでDVを避ける ある日の振り返り(5)

Aさん:最近パートナーの体調が悪くキゲンが悪い。以前は彼女のイライラが自分に向いているようで、責められているように感じたが、今は責められている感じがなくなってきた。タイムアウトを有効に使えるようになってきた(クリーニング屋さんに行ってくるね、など)。

Bさん:➀先日車の車検があったが、いつもよりも2万円高いところに出してしまい、パートナーが明らかにイライラしている様子だった。以前はそういう表情を見て自分が責められているように感じてしまい、DVになっていたが「イライ
ラしたら負けだ、DVしてしまうぞ」「批判でなく事実だ」をおまじないとして唱えることができるようになった。おまじないを唱えることで余計な一言を言わずに済んだ。後で考えると小さいことだったと思える。パートナーはただいろい
ろ(グチのようなことも)言いたいだけて、ただそれを聞くだけでいいと思う。

僕らは試されている ある日の振り返り(4)

振り返り人:再別居して3か月、最近は週に何度も一緒にご飯を食べたりしています。気が緩んできて、言葉が乱れてしまうんですが、その場では指摘されず、翌日にメールで言われることが多いです。言葉の乱れは態度の乱れに直結するの
で、何とかしたいと思っています。

仲間A:我々はちょっと食事に行けるようになったり、パートナーに優しい言葉をかけてもらえると、もうだいじょうぶだろうとすぐに油断して元に戻ってしまうから用心しなければならないと思います。

仲間B:それは変わったとは言わないと思う。彼女がただ優しくしてくれているだけで、許してくれたわけではない。試されていると思います。

ファシリテーターより:振り返り人は「とりあえず相手を優先」という呪文を唱えることになりました。