アウェアとは英語で「気づく」という意味です。
アウェアは2002年よりDVのない社会をめざして活動している民間団体です。
2022年に「一般社団法人」になりました。
アウェアの活動には4つの柱があります。
以下の4つのプログラムと養成講座は開始以降、現在まで継続中です。
1)DV加害者プログラム (2002年開始)
毎週2時間52回以上通う男性のためのプログラムです。治療やカウンセリングではなく、グループで行う教育プログラムです。DV被害者支援のひとつの方法として実施しています。
2)DV被害女性プログラム(2015年開始)
被害にあった女性がDVを見抜いて自分の人生を取り戻すチカラをつけるための月1回のプログラムです。配偶者や交際相手がアウェアの加害者プログラムに参加している人や、DVをされているけれど離婚・別居はまだ決断していない人、また過去にデートDVやDV被害にあった女性などが対象です。
3)デートDV防止プログラム(2003年開始)
DVはおとなだけの問題ではありません。若い人たちの交際でもおこっています。アウェアは2003年に『デートDV-相手を尊重する関係』(梨の木舎)を出版し、「デートDV」という言葉と概念を日本に紹介しました。若い人たちがデートDVをする人にならないよう、被害にいち早く気づけるよう、そして傍観者にならないように、自分を大切にし、相手を尊重する、健康で対等な関係をつくるために学ぶプログラムです。
4)ジェンダー平等プロジェクト
アウェアの全ての活動とプログラムは、ジェンダー平等(女性、男性、LGBTQ、すべての性の平等)の視点を重視しています。2020年から1年近くの間に5回開催した「力と支配:ジェンダーに基づく暴力の根絶をめざして」は、ジェンダー平等社会をめざすために、自分の中のジェンダー規範を「学び落とし」、ジェンダー不平等について問題意識を深めると同時に、まわりの人に「気づき」を促せるよう「力をつけける」ことが講座の目的でした。講師にはDVの専門家であるアリス・ラヴァイオレットさんをロサンゼルスからオンラインのライブで迎えました。この他、いろいろなテーマでオンラインサロンや講座などジェンダー平等を深堀りする場を適宜開いています。
アウェアは、プログラムを実施するファシリテーターの養成も毎年、行っています。2006年にデートDV防止プログラム、2008年にDV加害者プログラム、2017年にDV被害女性プログラムの各ファシリテータ養成講座を開始し、以来、毎年、実施しています。
ファシリテーターをめざす方はいずれの場合もまず、「ジェンダーに基づく暴力:DV・デートDVを学ぶ基礎研修」(前期・後期それぞれ2日間、合計4日間)の受講が必須です。DVとは親密な関係の相手に対するからだと心への暴力「力と支配」であり虐待です。グローバル・スタンダード(イスタンブール条約)では、DVは「ジェンダーに基づく暴力」(GBV)、すなわち性差別の一形態であることが明記されています。基礎研修では、「ジェンダーに基づく暴力」の意味、その歴史や社会構造、実態などについて学べます。また、参加者が自分自身を内観し、さまざまな気づきができることも当研修の特徴です。これまでの参加者から「自分自身のジェンダーにはじめて気づいた」、「自分も力と支配をしていたことがわかった」、「自分にも暴力容認意識があることに気づいた」などの感想が寄せられています。これらはDV及びデートDVの予防・防止・加害者介入・被害者支援に関わるプログラム実施者に不可欠の気づきです。
【プロフィール】
一般社団法人アウェア 代表理事:山口のり子
1950 年生まれ。27 歳で第二波フェミニズムに出遭い、以来 50 年近く女性への差別のないジェンダー平等社会をめざして日本と海外で活動する。シンガポールではDV(ドメスティック・バイオレンス)やセクシュアル・ハラスメント被害者支援、及び裁判支援に関わる。ロサンゼルスではDV加害者プログラムを実施するための研修を受け、帰国後2002年に東京で「アウェア」を開設し、DV加害者向け教育プログラムを始める。2003 年に「デートDV」という言葉をつくって本を出版し、若者向け防止教育を広める。DVとデートDVについて講演・執筆するとともに、各種プログラム実施者の養成をしている。
ふたつの全国組織(アウェアFネット:アウェア デートDV防止プログラム・ファシリテーター全国ネットワーク、PREPーJapan:DV 加害者更生教育プログラム全国ネットワークCoalition of IPV Perpetrator Re-Education Programs-Japan)の代表を務める。
2023年に東京から長野県佐久市に移住し、トレーラーハウスでの里山暮らしをsimple life in trailer houseのアカウント(youtube)で発信中。長野県と佐久市の男女共同参画審議会委員も務める。
著書
*『愛を言い訳にする人たち-DV加害男性 700 人の告白』2016年 梨の木舎
*『愛する、愛される-デートDVをなくす・若者のためのレッスン7』2004年 梨の木舎
*『デートDV 防止プログラム実施者向けワークブック』(梨の木舎)2003年 梨の木舎
*『DV あなた自身を抱きしめて―アメリカの被害者・加害者プログラム』2001年 梨の木舎
*『海外でつくった!人の輪・仕事の環』(梨の木舎)2000 梨の木舎
*『元気のおすそわけ―暮らしの中のフェミニズム』(太郎次郎社)1993 太郎次郎社
訳本
*『DV・虐待 加害者の実体を知る』(共訳 ランディ・バンクロフト著)2008年 明石書店
*『恋するまえに デートDVしない・されない 10代のためのガイドブック』(共訳 バリー・レビィ著)2009年 梨の木舎
アウェアの主張 代表理事 山口のり子
2001年にDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)ができてから、社会による被害者支援は少しずつ前進してきました。しかしDV防止法には加害者対策は入っていません。加害者対策はDV防止に不可欠です。DV対策にとりくんだ歴史の長い国には、加害者処罰に関する法律が作られています。米国もそのひとつです。カリフォルニア州には強制的逮捕と刑罰代替というふたつの法律があります。強制的逮捕とは、DVの容疑がある場合は、加害者の身柄を拘束することを警察官に義務づける法律です。被害者がけがをしている、家具がひっくり返っている、子どもが怯えているなど、警察官はすべて証拠として使います。ひどい暴力をふるった者や再犯者は起訴されます。過去に犯罪や飲酒運転などの経歴がない場合は、起訴されないこともあります。その代わりに1年間、更正のための教育プログラムに参加することが義務づけられています。これが刑罰代替と呼ばれる法律です。加害者はプログラム受講中と終了後3年間、保護監察局に定期的に通わなければなりません。同州では、強制的逮捕と刑罰代替というふたつの法律ができてはじめて、被害者の安全に役立つ加害者プログラムの仕組みができあがりました。
アウェアでは、カリフォルニア州認定のプログラムを応用して、男性向けDV加害者向けプログラムを実施しています。参加者は、被害者が家を出るとか、保護命令を申請するといった行動をおこしたことによりショックを受けてなんとかしなければと思った人たちか、妻にアウェアに通って変わるか、離婚だと突きつけられた人たちです。しかし彼らは加害者の中のほんの一握りの人たちです。多くの加害者は、「悪いのは相手だ。自分こそ被害者だ」と考えています。彼らを更生に向かわせるためには法的強制力が必要です。他人に対して行なったら暴行や傷害容疑などで逮捕されるような暴力行為なのに、相手が妻やガールフレンドだからとか、家庭内のことだからとか、個人的なことだからなどという理由で加害者を逮捕しないのは、被害を受けた女性の人権を軽んじることです。「暴力をふるう者は相手が誰であろうと処罰する」ことを社会が明確にしなければなりません。しかし本人が変わらない限り、処罰だけではまた相手に暴力をふるったり、別の人に対して同じことをしたりするかもしれません。それでは被害者の安全はありません。暴力をふるう者は「自分を変える責任がある」ということを明確にし、加害者プログラムを社会が用意する必要があります。
DVはおとなだけの問題ではありません。若者の間にも起きています。デート相手にするDVなので「デートDV」と言います。アウェアが2009年10月に発表した若者の意識調査結果では、交際経験のある若い女性の5人に1人、男性が11人に1人、デートDVの被害を経験しています。女性のほうが男性より2.5倍の率で被害にあっています。DV行動のひとつとして、女男ともに相手を束縛していますが、女性が携帯を使った束縛をすることが多い一方で、男性はそのほか、どなったりからだへの暴力をふるったりしておどして束縛する傾向があります。またデートDVに結びつきやすい考え方を多くの若者がもっていることもわかりました。例えば、「男性にセックスを求められたら女性は愛情があるなら少々イヤでも応じるべきだ」とか「数回デートしたら『相手は自分のものだ』と思っていい」という考え方を5人に1人がもっていることがわかりました。男性のほうが女性より、これらの考え方をもっている率が高いこともわかりましたす。またデートDVをされたことがある・したことがある人は、体験のない人に比べて、それぞれ2倍、3倍の率でこれらの考え方を支持していることもわかりました。子どもや若者が、デートDVやDVの加害者にも被害者にも、そして傍観者にもならないように、私たちおとなが、社会が子どもや若者に対して防止教育をする責任があります。
DVは社会が生み出している問題です。人々の意識と社会構造が変わらないかぎりDVはなくなりません。私たちひとりひとりが「自分には関係ない」から「それは自分の問題だ」へと考え方を変えなければなりません。そして、社会の構造を女男平等に変えること、被害者支援をもっと充実させること、若者への防止教育をしっかり行うこと、加害者対策を講じること、それらすべてを進めていかなければなりません。次世代にはジェンダー平等でひとりひとりの人権が大切にされる社会を手渡したいと思います。